読者へのお別れの言葉
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テクニカルな知識はさておいて、頭の構造の持つ美点、すなわち一人一人を区別させることのできる頭のフォルムに対して、絵描きは畏敬の念を抱かなければならない、また、表現における職人的な美しさへの追求心も絵描きは抱かなければならないと感じています。そして、絵描きは自分の技術をルーティーンのように決まったやり方、つまりどの頭でも同じ方法でできるようなものにするべきではありません。自分の持つ基本的な知識をもとに、常に実験しましょう。ある頭はあまり描き込まない方が一番いいときもありますし、またある頭は細部と現実への忠実さを完璧にすることが一番いいときもあります。あるものは線で表現すればよりおもしろくなることもあり、あるものは色調の変化で表現すればよりおもしろくなることもあります。しかし、描き上げた作品は決して、工場の組み立てラインから出来上がったようなものであってはなりません。すでに持っているテクニカルなスタイルを変えることは簡単ではありませんし、いろいろなことを考え続けることだって簡単ではありません。多くの練習と実験が必要です。
若い絵描きのグループがスケッチクラスを立ち上げて、週に1回集まり、モデルの費用や他の出費を共有するというのはとてもいいアイデアだと思います。このようなクラスでは、そこにいるだれもが他の人から学ぶことができますし、また、生涯続く友情を築くことができます。私たちが昔シカゴにいたころ、このような活動を行っていました。このグループの中には、各分野で活躍している人がたくさんいますし、国を代表する優れた仕事をしている人もいます。その人たちは個々の大きな努力によって認められたに違いないありませんが、そこにいた全ての人が、グループの経験から得るものがあったということは疑いようがありません。もちろん、美術で生計を立てようとする人は、できれば良い美術学校に通うべきでしょう。しかし、トレーニングは必ずしもそこで終わるものではありません。私が紹介したグループでは、仲間たち全員はすでに学業を終えて現場で活躍していましたが、もっと学びたいという思いから、このインフォーマルな講座を企画したのです。
この本の執筆は大変な作業でしたが、私はとても楽しかったです。読者の幸運を祈るとともに、このページの中から、皆さんにとっていつまでも価値を持つ何かを見出すことができるようにと願っています。また、仕事ではなく、趣味で絵を描いている人たちにとっても、問題を単純化することによって、選んだ娯楽がよりいっそう幸福なものになることを願っています。
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