男性の頭
頭と顔の筋肉
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頭の筋肉や骨の名前をすべて知っていても、絵描きにとっては何のメリットもないでしょう。しかし、それらがどこにあり、どこにくっついており、どんな機能があるかを知ることは、絵描きにとって非常に重要なことです。筋肉には、両端が骨に直接くっついているものと、片方の端が骨に、もう片方が他の筋肉にくっついているものがあることを知っておいてください。前者は骨格を動かす機能を持ち、後者は肉や皮フを動かす機能を持ちます。図20では頭まわりの筋肉と、それらがどのようにつながっているかが示されています。
頭の筋肉で最も重要なものは、あごを閉じる強力な筋肉です。その筋肉(※咬筋)はあごの角にあります。耳の前やそのすぐ下にあるとも言えます。サーカスの曲芸師は、ロープの先に付いている硬いゴムのようなものを噛んで、全身をロープの先にぶら下げられることで知られています。また、あごは頭蓋の横に広がる筋肉(※側頭筋)にもくっついています。この二つの筋肉が、口の中で食べ物をかみ砕いたり、すりつぶしたりする力を与えているのです。
目と口には、非常に驚異的な力学的原理がはたらいています。目も口も、円形の筋肉のシートに入った切れ込みのようになっています。中が空洞のゴム球を半球に割って、それに切れ込みを入れます。すると、ゴム半球に圧力がかからなければ、切れ目はひとりでに閉じます。しかし、ゴム半球を引っ張れば、簡単に切れ込みを開くことができます。あごの力を抜くと、口が開きます。意識して力を込めることによって、口は大きく開きます。逆に口を閉じたままにするには、ほとんど力は要りません。そういった一つの知識が時には非常に有利にはたらくこともあります。
唇を横に開き、口の端を引っ張る機能を持つ小さなリボンのような筋肉(※笑筋)は、非常に重要です。これが「ほほえみ筋群」です。ほほえみ筋群は、(※頬筋によって)皮フの下で収縮して頬を膨らませることもします。ほほえみ筋群が斜め上に引っ張られて、笑顔が輝けば、単なる力学の域を超えた素晴らしいことが起こるかもしれませんね。これを引き起こす筋肉たちを「幸せ筋群」(※大頬骨筋と小頬骨筋など)と覚えてください。幸せ筋群は頬骨にくっついていて、斜めに頬をまたがって唇の周りの筋肉まで続いています。
鼻の横を通り、口の端を越えて顎に至る筋肉にも注目してください。これが「不幸せ筋群」(※上唇鼻翼挙筋、口角下制筋など)です。一方は鼻の周りの骨に、もう一方は顎に付着しているため、(※上唇鼻翼挙筋によって)唇を上に引っ張って動物が唸るような表情になったり、(※口角下制筋によって)下に引っ張って嘲笑したりすることができます。この筋肉群は両端からはたらいて、動物が牙を見せるように、歯を露出させます。重いものを持ち上げるときや、走るなど極端な筋肉運動をするときに、不幸せ筋群は下向きに引っ張られるようです。笑顔の時は上に引っ張られるような口角ですが、不幸せ筋群によって口角は丸くなります。幸せ筋群と不幸せ筋群は、ほとんどの顔の表情の基礎となるため、関連付けて考えましょう。目尻のシワは、頬骨の下にある「幸せ筋群」が上向きに引っ張られ、頬の皮フがたわむことで発生します。また、頬の膨らみは、笑顔の時に目の下にできるシワや皮フのひだの原因にもなります。ある顔ではそのシワやひだが他の顔よりもはっきり現れる場合があります。「幸せ筋群」が左右に引っ張られて笑顔になると、鼻の穴が少し開いて目立つようになることがありますが、これも笑顔を描くための要素の一つです。
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