男性の頭─解剖学が必要な理由
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図28には、笑顔以外の表情の例が示されています。この図から、他の表情で顔の筋肉がどのように作用しているのかがわかるでしょう。唇の動きは、実にさまざまです。また、たいていの場合、口が表情の基本となります。漫画で表情を描くときは、漫画家は鏡を手元に置いておきます。なぜなら、モデルさんに説明するよりも簡単に、描きたい表情をとることができるからです。
鏡を使って描くときは、筋肉の動きを見るだけでよくて、自分自身に似せる必要はありません。鏡を使うことで頭や手をいつでも参照できるという、絵描きにとって非常に嬉しいことが起きます。2枚の鏡を正しくセットすれば、横から見たり、斜め前から見たり、左手を右手に見せたり、その逆をしたりすることができます。
表情のためならば、いろいろな表情を写真に撮っておいて損はありません。鏡に映った自分の顔を撮影することで、様々な表情をファイルにストックすることができます。ただ、私は絵描きがカメラに頼りきっている姿を見たくはありません。というのも、私がいつも言うように、どんなトレース、写図器、フォトスタット、投影機よりも、自分のデッサンからの方が多くのものを得られるからです。写真にはある種の歪みがあり、フリーハンドのデッサンを写した写真でない限り(さらには、それを用いたとしても)、写真から描いたデッサンは必ず写真の持つ歪みの影響を受けてしまいます。この歪みは、私たちが2つの目で見ているのに対して、カメラは1つしか持っていないことに起因していると思います。また、カメラと被写体の距離も大きく関係しています。写真をトレースしてみれば、歪みやその原因がよくわかると思います。どれほど写真っぽさを排除しようとしても、あなたの芸術性は失われてしまうように思われます。
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