読者と少しおしゃべり

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 頭を描くにあたって、全くの初心者がするアプローチと、きちんと根拠を持ったアプローチはぜんぜん違います。初心者はまず、真っ白な空間に目、耳、鼻、口を置き、その周りを顔の輪郭のようなもので囲むところから始めます。これでは、縦と横の2次元だけで描くことになってしまいます。そうではなく、私たちは何とかしてそこに奥行きを加えた3次元を身につけなければなりません。つまり、頭全体を空間の中に存在しているように描き、その上に顔を作っていくのです。そうすることで、顔のパーツだけでなく、光と影の面、さらに筋肉や骨、脂肪などの構造による凹凸やシワが見えてくるのです。

 初心者がこの3番目の次元に取りかかるための、さまざまな先生方が多くの方法を提案しています。ある人は卵の形を使い、ある人は立方体や直方体を使います。さらには、1つの顔のパーツから描き始めて、頭全体を取り囲むまで、その周りを描き加えると教える人もいます。しかしながら、その方法のどれもが失敗してしまう可能性をもっています。正面から見れば頭は卵のように見えますが、それでもあごの骨のラインを見ることはできません。横顔になると卵には見えなくなります。立方体の場合、頭を立方体の中に正確にはめ込む方法がありません。どの角度から見ても、頭は立方体とはまったく異なるのです。後で学びますが、頭を描くうえで立方体を使う機会は、作図線をパースに合わせる目印にするときぐらいしかありません。

 頭蓋ずがい(頭の上の丸い部分)は全体的に丸くて横側はいくぶん平べったい形をしています。それに似た丸い球を描き、そこにあごの骨と顔のパーツを取り付ける。このように、頭蓋骨と基本的に似ていて、描くのが簡単で、正確に作図できるような、そういった形から始めるのがより理にかなっていると思います。数年前、私はこのやり方を思いつき、私の最初の本「Fun with a Pencil」の基本としました。嬉しいことに、このやり方は非常によく受け入れられ、今では学校やプロのアーティストに広く使われています。顔を描くときの直接的で効率的なアプローチはいずれも、頭蓋骨とそのパーツ、そしてそれらを分割する点を前提にしなければなりません。車輪を描くときにまず四角形でアタリをとるのと同じように、頭を立方体から描き始めるのは合理的ではあります。角を切り取り、さらに正方形を削っていけば、最終的には正確な車輪ができます。同じように、少しづつ立方体を削っていけば頭を作ることはできます。しかし、それでは遠回りです。まずは円や球から始めてみてはどうでしょうか。球が描けないなら、コインやコンパスを使えばいいのです。彫刻家は、丸い頭蓋にくっついている、顔の大まかな形から彫り始めます。それ以外の方法ではうまく彫れないのです。  

 このシンプルなやり方が、正確であり、かつクリエイティブな唯一のアプローチだったため、この本で紹介することにしました。他の正確な方法は、投影機、トレース、パンタグラフ(写図器)、あるいは拡大して方眼紙を使う方法など、機械的な手段を必要とします。問題は、あなたが頭を描く能力を身につけたいのか、それとも機械的な手段で投影して満足するのか、ということです。もし後者であれば、この本に興味を持たなかっただろうと私は思います。もし、あなたの生計が完璧な似顔絵を作ることにかかっており、ギャンブルのように不確実なことをしたくないのであれば、どんな手段を使ってでも、最高の頭を作ってください。しかし、作品を描いていて喜びやゾクゾクするような達成感を覚えているのならば、自分の能力の向上を目指してほしいと私は強く思います。

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